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梅脇 常二さん(有高8回)

今回は東京農大卒の長男と3男と共に、宝塚市西谷で和牛130頭と乳牛140頭を飼育されている、梅脇牧場をお訪ねした。

思い起こせば、早いもので彼と私が机を並べてからもう半世紀になる。彼は非常に温厚な性格の持ち主で、その口から攻撃的な言葉や人の陰口を耳にしたことがない。

当時は、まだ戦後の食料不足が尾をひいていた時代で、充分農業で生計が立てられた時代であった。更に出身地”上佐曽利”は、花で全国的に名を馳せた土地柄であったが、それでも10年余りに亘って試行錯誤を繰り返し、乳と蜜の流れる郷を夢見て、昭和43年、酪農の道を選択されたのである。

以来37年、時代の変遷を乗り越え現在の経営基盤を築かれたのは、確固たる信念に裏打ちされた努力が実を結んだ結果であろう。

その苦労と努力を、いずれ息子さん2人が継いでくれる。また自信を持って次世代へバトンタッチが出来る。彼にとって至福の時間であろうと推測される。後継者問題で頭を悩ます農家の多い中、羨ましい限りである。

まず牧場の内外を一巡して気づいたことは、環境に特に気を配り、多くの資金投資とアイデアが施されていることである。糞尿を分離しない・一度排出した厩肥を乾燥してもう一度牛舎に戻す?私の常識を越えた発想である。考えてみれば厩肥の中で増殖中の発酵酵素をもう一度牛舎に戻すことで、新しい排泄物の発酵の促進と同時に排出量を抑える効果が期待でき、更に夏冬を問わず扇風機を稼働することで、足元の一層の乾燥効果を促し、牛にとって快適な環境をつくる。而して乳量の生産量を高める、当然の理である。

従来の係留方式から自由に動き回れる放牧方式を採用し、少しでも牛のストレスを和らげる方法を考案した結果、心地良さそうに自動ブラッシング機に身をゆだねて、目を細めている牛の穏やかな表情と、毛艶の良い牛の群がそこにあった。また工務店が処分に困って持ち込んだ建築廃材を利用して飼料を煮沸して牛に与えるなど、「牛の為に何がよいか」を考え、しかも「経費を抑える」素晴らしい経営哲学を垣間見た思いである。

また酪農家にとって、如何に効率よく受精を促進するかは経営の根幹ともいえるハードルだが、牡牛を導入して自然の生殖本能を大切にする考え方など「多頭飼育だから出来る」と言ってしまえばそれまでだが、彼の人間性の一端に触れて頭の下がる思いがした。

「消費者は良い物を安く……を求め、一方では公害には厳しく……。少し勝手すぎるネ」と水を向けてみたが、「買ってもらえるから農業者がそこにある」軽く笑った彼の温顔には何のてらいも無かった。

意識して見渡した牧場の何処にも奥さんやお嫁さんのすがたが見あたらなかった。女性を巻き込まない経営は私のなしえなかった経営である。事務所では息子さん達と工務店とで次の改善計画が練られていた模様である。

消費者の農業への理解が進んでいるとは思うが、農業問題が自分たちの食と繋がっている事への理解を得るにはまだまだ道のりは遠い。多くの消費者がそのことに気づき、若者が夢を持って就農出来る環境が整う日を期待して、お二人の若者の頑張りにエールを贈り、事業の更なる発展を祈りながら梅脇牧場を辞したが、色々と考えさせられた訪問であった。

(文責:大西勲)